「各地の学窓から 「大学のまち・京都」の底力」
独立行政法人労働政策研究・研修機構ビジネス・レーバー・トレンド(No.360)
同志社大学で、ここ五年ほど「産業調査実習」という授業を通年で担当している。文字通り、調査のイロハを学ぶことから始まり、自ら調査計画を立てて実施し、その結果を報告論文としてまとめることを目的としているため、教える側も教わる側も極めて負担が大きい。
昨春、この悪名高い授業を選択したのは八人の三年生。例年通り、初回の授業で今後の覚悟のほどを探ってみたところ、うち二人が「京都学生祭典の実行委員を していまして」といい出した。京都学生祭典とは、京都中の大学が協力して行う学園祭のようなもので、今回が二回目。大学コンソーシアム京都と京都経済同友 会、京都商工会議所を筆頭とする地元経済界が、その試みを支援しているという。
「十月九日の本番までは……」と予防線を張ろうとする彼らに、それはそれ、これはこれだよね、と容赦なく切り返す。以後、「実行委員のほうはどう?」「い やあ大変です」という会話は何度か交わされたものの、取り立てて配慮するわけでもなく、他の受講生と同様の作業を要求され、課題をこなし続けていた。とは いえ、進捗状況ははかばかしくなく、傍目にも憔悴しているように見える。当人たちが口をつぐんでいたので、かえって気になってはいた。それだけに、よりに よって本番当日、台風接近による暴風雨のニュースを出張先で聞いたときは、彼らの無念さを思い、気の毒で胸が痛んだものである。
規模を大幅に縮小して実施せざるを得なかった第二回京都学生祭典は、十二月に「冬の陣」と称して仕切り直しがあった。それもなかなか一筋縄ではいかなかっ たらしい。その頃には調査実習も佳境を迎え、先日無事報告会を終えることができた。こちらもとりあえずやり遂げた彼らと、打ち上げの席上でアルコールを片 手にようやく裏話に花が咲いた。
警備の要職に就いた一人は、警察に足しげく通う一方で、近隣住民にもひたすら挨拶回りをしたという。パンフレットの部署紹介にあった「当日事故ゼロ、合い 言葉は“導線確保”」という言葉から意気込みが伝わってくるようだ。営業部隊として活躍したもう一人は、地域のお店とも関わらなければもったいないとばか りに、クーポンによる資金集めに挑戦したものの、賛同を得るのに一苦労、ミスをやらかして謝罪に一苦労、とやせる思いだったそうである。後日談としては実 に面白かったのだが、陰でそれだけのことをやっていたのかと思うと、急性胃腸炎で寝込んだとか、本当にやせたとかいいながら、軽口をたたいている彼らが急 に頼もしく見えた。
羨ましい話だが、学生には自由な時間を持て余し、それゆえ何かに没頭したいと渇望する、などという贅沢が許されている。大学の壁を乗り越えて、あえて困難 に立ち向かおうとする元気な学生が、それをいいわけにはしない潔い学生が、京都には大勢いるのだ。企業にも、行政にも、地元の人々にも、それを許容するだ けの懐の深さが京都にはある。そんな濃密な関係性が、京都というまちの底力なのだろう。
今年も、同じような時期に第三回京都学生祭典が計画されていると聞く。胎動を始めた新たな学生パワーに是非注目し、大いなる期待を寄せていただきたい。
[参考]
京都学生祭典 http://www.consortium.or.jp/~festa/
大学コンソーシアム京都 http://www.consortium.or.jp