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「就職活動に王道なし-働くことを覚悟できるか-」 2003年度文学部父母懇談会(名古屋)講演集

学生の就職に関して、特に何か力になれるというわけではないのですが、学生自身が時間を通じて変化していく、成長してい く様子は、私の目から見ていても良く分かります。7歳で小学校に入学してから、ずっと勉強する立場でここまできて、いよいよ社会人として就職するという境 目にさしかかるわけです。社会に出て働くのだ、学生ではなくなるのだという覚悟ができるかどうか。覚悟が形成される過程と就職活動は、実は重なっているよ うに思います。言い換えると、覚悟が形成されることで内定がもたらされる、唯一確かに言えるのは、そういうことのような気がします。そのあたりを中心に、 今日はお話したいと思います。

具体的な例を出した方が分かり易いかと思いまして、今年度のゼミ4回生の就職活動状況を少しご紹介させ ていただきます。同志社大学に着任して5年になりますが、いつもゼミ生が少なく、10名弱でやってきました。少数精鋭だと自分には言い聞かせていますが、 単に人気がないだけだと思います。ところが、今年度の4回生だけは、巷では「バブル」と噂されたほど、男子12名、女子2名の比較的大所帯になりました。 それまでは、例えば昨年度の卒業生は6名だったのですが、そのうち3名が進学し、1名が公務員になりましたので、大学生の就職を研究テーマにしていなが ら、私自身は就職活動をしておらず、なおかつ身近に学生のサンプルが少なかったわけで、今の大学生の就職はどうなのだろうと興味はあったものの、実際のと ころが良く分からなかったのです。今年度は14名いましたので、様子を見ていて、今の就職はこんな感じなんだなということが、ある程度つかめたような気が しています。

この学年は、人数が多くて元気が良かったこともあり、3回生の1年間は比較的良く勉強しました。それな りに結果も出して、自信や自負を持っている学年です。現時点で内定している学生は8名で、男子7名、女子1名です。色々な経緯がありまして、A社に決まっ た男子学生は、最初からとことん強気で、研究室に来てしゃべっては、「落ちる気がしない。」と言います。「そんなことを言っていたら、面接にそういう態度 が出るから、謙虚にやりなさいよ。」とたしなめるのですが、「いや大丈夫です、いけます、簡単なものです。」と。どこかでつまずくのではないかと心配して いたのですが、そのまま最後まで乗り切ってしまいました。他にB社やC社などの内定も得ていたのですが、海外営業ができるA社に決めたそうです。先日、 「今から行ってきます。」とカナダへ3ヶ月ほど放浪の旅に出かけてしまいました。最後の夏休みを満喫しているようです。

D社に内定した男子学生が1名。ゼミの成績は一番下くらいです。ただ、体育会系で対人能力が極めて高 い。昨年、ゼミで様々な調査を行いました。調査票を送って、なかなかお返事をいただけないところには、電話で「すみません、お手元にありましたら送ってい ただけませんか。」とお願いします。そういういうことをさせると抜群です。普通は、初めてのところにかけますから、緊張して何をしゃべったら良いか分から ない、マニュアルを作ってその通りにしかしゃべれない学生が多いのですが、彼の場合は相手の出方に柔軟に対応できる。人懐っこい、人好きのする、憎めない 性格で、E社のインターン・シップに参加したりもしていました。F社やG社などの内定も得ていましたが、地元出身ということもあり、D社に決めたようで す。

就職活動継続者、まだ決まっていない学生が1名います。男子学生ですが、ゼミではリーダー格で、気働き はあるし、明るいし、成績も良い。どこでも決まるだろうと思っていた学生ですが、今も就職活動をしています。要因として考えられるのは、マスコミ限定とい うことなんです。どうしてもマスコミに行きたい。高校時代、野球をやっていたので、高校野球に関わる番組を作りたいという夢がある。東京、地方に関わらず テレビ局を受けまくったのですが、やはり決まらない。それでもめげることなく、番組制作会社を中心にまわっているようです。「どこか小さいところでも良い から決まれば良いね。」と言っています。彼は、就職活動を継続しながらも、ゼミにはきちんと出席していますし、そういう姿勢は高く評価できます。「何とか 夢が叶ったらいのにね。」と言っている段階です。

その一方で、現時点で進学希望者が4名いまして、男子3名、女子1名です。女子は、産業関係学を勉強し ているものの、仕事としては最初から福祉をしたいと迷いはなかったのですが、大学院進学を希望している男子3名のうち2名は、1~2ヶ月前までは就職活動 をしていたんです。就職が決まれは、就職したんだろうと思います。うまくいかなくて、だんだん進学などと口走るようになってきた。決してそれが「逃げ」か らというだけでもなく、昨年1年間良く勉強しましたので、その中に面白さを見出したからこそ、もう少し勉強したいということになったのだろうと思います が、就職が決まっていたら進学は言いださなかっただろうなとも思えるのです。

さらに、海外留学ではなく「遊学」希望者が1名います。彼の場合は、アルバイトで塾講師をしていた関係 で、塾など教育産業を中心に就職活動をしていたのですが、先だって「色々やってみたんですけど、就職活動は違うかなと思って、止めようと思います。ついて は、卒業したら海外へ2~3年行って、経験を積みたいと考えているんですけど。」と言い出しまして、「ああ、そうなの。」という感じです。何かそれなりの 準備をしているらしいです。このようにGW明け、内定が出るのが一段落した頃、内定が出なかった学生については、複雑に揺れる時期があるようです。

卒業を控えた学生の進路には、4つの選択肢があります。典型的なものが「就職活動をして就職する」。 「大学院に進学する」は近年増えています。「留学する」は語学学校や遊学も含めて海外に行きたいということ。最後が「フリーターになる」。これ以外に、留 年して来年もう1度就職活動をやり直しますとか、公務員試験を受け直しますという学生がいますが、これが結構簡単に言い出すんです。私はもともと経済学を 学びましたので、教育は「投資」だと考えているのですが、本学の授業料も安くはなくて、年間100万円というお金がかかります。「あと1年間、100万円 の追加投資して回収する目処があるわけ?」と聞いてみたところで、もう1つピンとこないみたいです。「機会費用」という概念がありまして、留年すると単に 追加投資になるだけでなく、普通に来年4月に就職すれば、その後の1年間で稼げる何百万円というお金も放棄することになります。そこまでお金をかけて、将 来的に回収する目処があるか聞くのですが、そこまでは考えていない。学生にとって、教育というのは投資ではなく、親のお金を使った消費なのだなとつくづく 思います。

いずれにしても就職活動をして就職する、もちろん道はそれだけではないのですが、人生の岐路に立って就 職するという決断をする、人生の方向づけをするということの先延ばしという側面があることは否めません。その最たるものが、非常に問題視されているフリー ターです。2002年では、大卒の4人に1人がフリーターになっています。もちろん大学間の格差はありますので、本学卒業生の4人に1人がフリーターに なっているわけではありませんが。最近「職業は?」と聞かれると、フリーターと答える人がかなりいて、職業としてのフリーターが定着している感もありま す。フリーターは定義するのが難しいのですが、一般的には15~34歳で学生でも主婦でもない人のうち、パートタイマーやアルバイトという名称で雇用され ているか、無業でそうした形態で就業したい者を指します。新聞の投書欄などで「45歳・フリーター」と名乗っている人は、とらえ方が間違っていまして、フ リーターではなく非正規就業者です。通常、フリーターは若者に限定されます。

フリーターがどの程度増えているのか。フリーターの数を数えるのは極めて困難ですが、1997年で 173万人という統計があります。2001年で206万人。大阪市の人口程度になります。平成15年版の「厚生労働白書」では417万人で、2001年か ら倍増しています。皆さんは、「同志社大生が卒業後にフリーターになるなんてあり得ない。そんな話をされても困る。」と思われるかもしれませんが、一概に そうも言い切れません。フリーターでなくても、非正規社員として就職する学生は、本学でも増えています。この3月に卒業したある女子学生の就職先は、H社 です。旅行会社に就職できて良かったねということになりそうですが、普通の就職活動では内定が得られず、どうしても旅行会社に勤めたくて契約社員になりま した。就職先は確かにH社ですが、正社員ではない。数年間の契約でしかありませんから、不安定な状態で働いています。あながち本学の学生に無関係な話では ありません。アルバイトをするのはマシなほうで、何もしない、ただぶらぶらしている、家に引きこもっているという大卒無業者も相当増えています。フリー ターになるだけマシと言われる時代も近いかもしれません。

無業・フリーターになることと、個人や大学の属性とがどう関係するかという研究結果があるのですが、平 均的な傾向として女子のほうが無業・フリーターになる例は多いです。性別で明らかに差が出ています。そして芸術系、教育系、人文科学系学部の出身者に多 い。芸術系は特殊で、ミュージシャンを目指していたり、陶芸の修業をしたりしながらアルバイトをするというイメージですが、一般的には文科系の実学ではな い学部ですね。法学部、経済学部などになりますと、無業・フリーターの出現率は低下します。文学部出身者は、可能性なきにしも非ず、です。大学の所在地に よる地域格差もありまして、北海道・東北地方は無業・フリーターの出現率が高くなりますが、北海道はこのところ極端に経済状況が悪いという特殊事情もあり ます。単に無業・フリーターの出現率を都道府県別に見ますと、京都は決して低くありません。むしろ高い。都市部のほうが出現し易くなります。1位が沖縄 で、北海道と同じく地域的な特殊性がありますが、2位が東京、3位が京都です。5位に奈良、6位に大阪が入ってきますので、関西は地域的にも無業・フリー ターが出現し易く、また、私立で入学難易度が低めの大学の卒業生に無業・フリーターが多くなっています。

フリーターには、大きく分けて「モラトリアム型」「夢追求型」「やむをえず型」の3タイプがあります。 その中でさらに細かく分類されていますが、「モラトリアム型」は、何となく先延ばしをしているタイプ。「夢追求型」は、ミュージシャンや職人になりたいの でアルバイトをしながら修業しているタイプ。「やむをえず型」は、本当は正社員になりたかったけどダメだった、就職活動をしなければならない時期に、家庭 の事情などでできなかったというタイプです。無業・フリーターになった人は、就職活動をがんばったけどダメだったのではなく、最初から就職活動をしないま ま無業・フリーターに突入してしまった例が多いのです。無業者男子の31%、女子の26%が就職活動をしなかったという統計もあります。非正規社員として 就職したが、就職活動はしなかったという人が16~17%存在します。さらに、正社員として就職した人は、平均5ヶ月間の就職活動期間で平均22社と面接 などで接触しているのに対し、無業者や非正規社員として就職した人は、8~12ヶ月間で16~17社程度との接触です。これを差があると見るのか、大差な いと見るのか、慎重な解釈が求められますが、少なくとも本人の就職活動に対する積極性や意欲がポイントになっていると言えるのではないでしょうか。最初か らやる気がなく、就職から目を背け続け、そのままずるずると無業・フリーターになる。そんな典型例が、統計からも如実に浮かんできます。

フリーターにしても非正規社員にしても働き方の1つですので、職業=フリーターでやっていけるのなら良 いのでは?と思われるかもしれませんが、フリーターの最大の問題点は、職業的な自立が難しいということです。職業的自立に背を向けるリスクの1点目は「ア ルバイト労働は職業能力蓄積(開発)には寄与しない」ということ。低賃金の仕事は、単純なルーティンワークがほとんどです。いくら続けても、何らスキルは 身につきません。2点目は「フリーター期間はキャリア探索期間としては有効ではない」ということ。フリーターをしながら次のキャリアを見つけようとしてい るのでしょうが、結果的にその目的は達成されていません。3点目は「職業能力蓄積(開発)の方向性と現実の就業機会との接点がない」ということ。フリー ター経験がどれだけ長くても、企業は就業経験を積んだと評価しません。最後に「当初から正社員であった場合との労働条件格差」が広がる一方です。高卒後す ぐに正社員として就職した場合と35歳まで20年近くフリーターをした後に正社員として就職した場合では、生涯所得で約6000万円低下すると試算されて います。また、最初から正社員として就職した場合と一定期間フリーターをした後に正社員として就職した場合では、勤務先にも格差が生じます。後者は、あま り労働条件が良いところに就職できていません。

そこで、働くことを覚悟できるか?平成15年版の「国民生活白書」のテーマは「デフレと生活」です。 「若年フリーターの現在(いま)」という特集が組まれています。それだけ現代社会では、若者のフリーター、就業意識の低下、失業者などが問題視されている わけです。6月19日付朝日新聞に「働く意欲を引き出そうフリーター」という社説が載りました。厚生労働省など4省庁が、若者のフリーターや失業者の増加 に歯止めをかける対策を打ち出し、「若者・自立挑戦プラン」として3年間で成果を出そうとしていることを紹介して、「自分が何をしたいか分からない若者を 現場に連れて行き、実践を通じて働く意欲を引き出すことだ。根気のいる事業だが、必要な予算投入を惜しまず、ひとつひとつの対策をきめ細かく実行してもら いたい。」と述べています。

後日、読者からの投書がありました。フリーター女性・26歳は、「フリーターが働く意欲もなく、「自分 で何をしたいか分からない」「人生の大切な時期を無為に過ごす」ダメ人間だと決めつけられているように思え、非常に腹が立ちました。フリーター増加の原因 の一つには、会社に就職し働きづめに働く人生よりも、心豊かに生きたいと思う人が増えているということがあると思います。生活ができる程度のお金を稼い で、あとの時間は有効に使う。今は、そういった生活スタイルもあるのです。」と反論しています。さらに、飲食店男性・29歳は、「すべてのフリーターの 方々が、軽い気持ちでフリーターになっているとは思わない。低賃金のアルバイト・パートでもやりがいを感じ、誇りをもって働いている人も多いと思う。いろ いろな仕事や自分の置かれた状況を通して、自分は何をしたいのか、また、何ができるのか考えることができる。決して社説で書かれているような、「人生の大 切な時期を無為に過ごす」などとは思わない。多くの若者はそう感じていると思う。」と主張し、高校生女性・18歳は、「フリーターに偏見を持っている方へ 伝えたいです。働く意欲を無理に起こさせようとしたり、むやみに批判したりしないで下さい。一生懸命自分の夢に向かって努力している人や、そうしたいのに できなくて苦しんでいる人だっているんですから。」と訴えています。

一連のやりとりには、いずれも一理あります。正しいとか間違っているとかではなく、それなりの見方や考 え方はあるのだろうと思います。ただ強く言えることは、現時点で調子の良い企業に勤めたとしても、その後の保障は全くありません。就職さえできれば大丈夫 ということには、決してならないわけです。そうすると何よりも大事になるのは、小杉礼子さんという日本労働研究機構(現独立行政法人労働政策研究・研修機 構)の研究員でフリーター問題の専門家の言葉ですが、「自分の中に失うことのない職業的な力を蓄積していく」こと。他人や企業を頼るのではなく、自分の中 にそういう力を蓄積していくことが重要になる。それが1番強いのではないか。私もそうだと思います。ただ、今は世の中が経済的に疲弊しきっていて、若者を 1人前にしていく社会的な仕組みが揺らいでいる。若者も、そういう力を身につけようとする意欲が弱くなっています。

学生が、社会に出て就職すること、働くことに対して、何だか良く分からないけど漠然とした不安を入学段 階から感じていることは、ひしひしと伝わってきます。受験勉強も終わって、これから楽しい4年間だ。けれども4年後には岐路に立たされる。就職する、働く ことに関して、大丈夫なのだろうかという不安を感じているのは間違いありません。本来なら、大学4年間を通じて自力で不安と向き合い、克服して、今後長き にわたって働いていくことを覚悟しなければならないのですが、自力では難しい学生が増えているように思います。それを親御さんなり教員なりが手助けしない といけないのか。投書にもありましたが、無理やりにでも自覚させて、覚悟させたほうが良いのか。一方で、自分でそういう決断ができるまで、じっくり時間を かけて待てば良いのか。待つ姿勢も必要なのか。私自身、学生と接していてはかりかねている部分があります。何をどこまで言ったら良いのか。経済的な事情が 許すならば、先延ばしをしてじっくり考えるモラトリアムというのも、もしかしたら「あり」なんじゃないかと思うことさえあります。

就職委員を2年間させていただいた関係で、文学部の就職情報誌にも拙文を寄せています。都合4本、その 時のテーマに応じて書かせていただいたのですが、改めて読んでみますと、非常に歯切れが悪い。「運が悪かった?(2002年春号)」のように景気が悪く、 私が就職活動をするはずだったバブルの終わり頃に比べて気の毒だと思う反面、考えなしに進学します、留年します、と逃げる学生もいて。「居場所を探して (2002年秋号)」で紹介したのは、公務員として就職したものの、本当にやりたいことは違うんじゃないかと、紆余曲折を経てNPOの職員になった例。こ ういう生き方もあるのではないか。私の中でも揺れている部分があります。ただ、「職業的自立に背を向けるリスク」は教えなければならない。どういう生き方 をするにせよ、取り返しがつかなくなるまでに真剣に考えなさいよ、ということ。それができるように、きちんとした情報を提供する、判断材料となる正しい情 報を伝えていく必要があるのかなと。それが私自身の役割だと思っています。

正課でも「キャリア開発と学生生活」「キャリア形成とインターン・シップ」などの働くための動機づけの 授業があり、単位が認定されます。私は「キャリア形成とインターン・シップ」の担当者の1人でもありますので、授業を利用して、まずは早い段階から考えて みることも有効ではないでしょうか。D社に決まったゼミ生も、インターン・シップに参加していました。企業側も学生に対して、働くということはこういうこ となんだと真剣に伝えようとしていますので、大きな刺激を受けて帰ってきます。企業で働くということはこういうことなんだと、理屈ではなく直観的に感じ取 れるチャンスだと思います。機会があればそういう体験をしてみて、考える手だてにすれば良いのではないでしょうか。学生も色々と苦労しています。学生が何 かを求めてきた時に、どっしりと受け止められるような姿勢を、大学としても文学部としても私個人としても準備しておきたいと思います。

以上で終わらせていただきます。ご清聴ありがとうございました。

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